プロジェクトマネジメントで使う段階的詳細化と段階的抽象化
PMBOKの考え方のひとつに「段階的詳細化」というものがあります。現時点で判明しない不明確なことは、無理に詳細化せずに、そのときが来るまで大ざっぱな状態にしておくということです。
PMBOKでは大ざっぱという言葉ではなく、“ハイレベル”という言葉で説明していますが、なんか違う意味に捉えられてしまいそうです。
段階的詳細化と段階的抽象化について
「段階的詳細化」ですが、この考え方は非常に重要です。正直なところ、みなさんも無意識で同じような考え方をしていることと思います。実際の業務でも、多岐にわたり使われているはずです。
よく例えられることの一つに、「数カ月先のスケジュールなんて、今すぐ詳細は作れません」というもの。現時点で判明しない不明確なものを詳細化しろといっても無理です。
見えないものは見えるようになってから作る、そのような発想を、ぶれないように定義したものが、段階的詳細化という言葉です。
この考えを成果物の作成の工程に当てはめると、面白いことがわかります。下図は、よく見かけるV字モデルの図です。業務システムの構築を例に取ります。
出典:IPA超上流から攻めるIT化の原理原則17ヶ条26ページ目
通常の開発は、要件の定義から始まり、外部設計、内部設計、プログラム設計と進んでいきます。(上図と呼び方が異なっていますがご容赦ください)
これが成果物の段階的詳細化です。要件の塊(要件定義)が、プログラムレベルまで詳細化されていく、ということです。
そして、プログラムレベルの細分化を経て実際のプログラムを作成した後は、今度は要件の塊まで戻していきます。PMBOKには出てきませんが、「段階的抽象化」と呼んでいます。
要件を段階的に詳細化していく
要件は抽象的です。「どのように実現するか」という詳細な内容は、この段階(要件定義)では含まれていません。
顧客は、結果(要件の実現)を求めているわけであり、実現手段の細かいところまではあまり気にしていません。(そうでない方もたまにいますが)
そして、その要件を実現していくために、外部設計、内部設計と段階的に詳細な設計をしていきます。最下位の粒度としてはプログラム(細かく言えば、共通部品など)となり、V字モデルの底の部分に位置します。
詳細化した後は、要件まで段階的に抽象化していく
次に、プログラムを作成した後は、段階的に要件のレベルまで抽象度を上げていきます。
要件のレベルまで、段階的に抽象化をしていくという過程で、各段階の関門(テスト)を通じて、その段階(工程)が担保されているかどうかを検証していきます。これがテスト工程です。
具体的には、各プログラム(部品でも)が一番粒度の小さい成果物です。まずは、単体レベルでテストを行い、その関門をくぐってきたプログラムを結合してテストを行います。
そして本番機でのテストを行い、最終的にユーザーの要件が満たされたかの受け入れテストをおこないます。
じょじょに粒度が大きくなっていくようなイメージですね。
要求事項トレーサビリティ・マトリックス
このことから、要件定義で確定した要件は、段階的に詳細化されていくので、最終粒度であるプログラムまで、すべて要件と紐付けて管理できるはずです。
PMBOKでも出てきます。「要求事項トレーサビリティ・マトリックス」です。実際の業務で使用されている場合は、名前が違っているかもしれません。
要件に漏れがないことが前提ですが、この要求事項トレーサビリティ・マトリックスを作成しておくと、受け入れ時の確認が容易にできます。また、要件に漏れがないかも担保されているので、作成することをお勧めします。
当然、要求事項トレーサビリティ・マトリックスの作成や維持をするためには、それなりの労力が必要ですが、ある要件に対しての成果物をまとめて引っこ抜くことも可能なので、いろいろと使い道はあります。
まとめ
段階的詳細化の考え方は、PMBOKの知識が特になくても、みなさんは無意識で使われている(行っている)事と思います。
しかし、PMBOKでしっかりとその考え方の裏づけをとることで、自分の行動における根拠や自信を持つことができます。
例えば、(無茶な)顧客から、「半年後先の”詳細な”スケジュールを作ってくれないと困る!」などと言われても、「PMBOKの段階的詳細化をご存知ないのですか?」と、言い返す? いや、説得? いや、諭してあげる? ことができるようになります。
それから、成果物に対する、段階的詳細化と段階的抽象化の観点は、作業を進めていくうえでも、わかりやすく説明できる考え方です。
V字モデルの図はいたるところで見かけますが、この段階的詳細化と段階的抽象化の二言で、あっさりと説明できると思います。使い道は多いですね。
顧客向けの説明でも、作業工程の意味を理解してもらえています。
みなさんも、PMBOKの考え方をきっちりと理解した上で、実業務で活用することを強くお勧めします。
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